Low Rider
文:CAPGON
今からもう10年近く前のことでしょうか。当時は空前の円高ドル安で、輸出量の多い企業にとっては大打撃を食らうなど、問題もたくさんありましたが、逆にアメリカからの輸入品の価格がドーンと安くなり、我々一般の消費者にとっては、ある意味大いに結構な時代でした。それまで日本の市場ではバカみたいな値段の付いていたアメリカ車が、輸入代行業者などの台頭によって、いきなり我々一般庶民にも手の届くような値段で売られるようになり、若者のファッションという側面からもブームに乗って、本格的な『米国車流行』の時代に突入していきました。
ブームとなればマスコミが黙っているワケがありません。それまで外車情報誌の片隅か、たまにちょっとした特集が組まれる程度の扱いであり、専門誌などあり得なかったアメリカ車が、主役として登場する雑誌や専門誌が続々と発行されました。もちろんそういう業界の事ですから、間も無く廃刊などの憂き目に会う雑誌も少なく無いんですね。いつの間にか消えて行ったアメ車雑誌もたくさんありました。というか、ほとんどがそうだったと言っても良いでしょう。中にはたった一月か二月発売されただけで、早くも廃刊になった雑誌もありました。子供の頃からアメ車の記事が少しでも掲載されている雑誌を本屋で見つけると、片っ端から買っていたボクのコレクションの中にも、今あらためて見直すと『これは今となってはレアなアメ車雑誌だなぁ』と思える本が多数あるんですね。もちろん為替もブームもとっくに一段落した現在でもアメリカ車を扱う専門誌はいくつか出ています。みなさんも買って読まれていることでしょう。で、10年ほど前の円高になり始めたころから、現在までずーっとそうなんですが、思っている事があるんですが・・・。
アメ車雑誌と言えば、アメ車屋さんの広告ですね。特に今すぐクルマを買うために探している訳でもないのに、なぜか一生懸命見てしまう・・・。『ほー、何年型の○○が○○万円かぁ』とか『おっ、この○○○良いなあ〜』などとブツブツ言ってしまうわけですね。そんな、アメ車雑誌の広告を見ていて、ずいぶん前から気になっていた事があるんです。
良く『1995年型シボレーアストロ・ローライダー、ボイドアルミ付き、ゼノンフルエアロ、1○8万円!』とか『1996年式シボレー・サバーバン・ローライダー、バドニック'17、リアロールパン、2○8万円』もしくは『91年シボレーカプリスセダン・ローライダー、社外アルミ、CDチェンジャー付き、○8万円』みたいなの見かけますよね?特に東名・○浜○田インター近辺の大型外車屋さんの広告なんかで良く見た気がするんですが・・・。ナンか変だと思いません?もっとも最近は、だいぶ言葉の意味を正しく理解してきた様で、こういう記載をする業者さんもかなり減って来たようですが、まだ相変わらずいるんですねー。特に『激安!』とか『お買い得!』みたいな謳い文句の派手な広告のショップに多く見られるようです。
ローライダーって何でしょうか?これはボクの勝手な解釈かも知れません。もしかしたら、自分の知識や認識が間違っているかも知れません。ただ、ボクの知っているローライダーとは、もともとアメリカ在住のマイノリティの人々(アフリカ系アメリカ人、いわゆる黒人やメキシカン・スパニッシュと呼ばれる有色人種のこと、そういう意味では黄色人種の我々も素質ありか?)から生まれた独自のカルチャーであり、当時の貧しい彼らが何とか手に入れられる中古のフルサイズカーを、少しでも良く見せるために車高を落とし、さらに低くエレガントに見える様に小径のワイヤーホイール等を履き、ペイントや内装を豪華に飾り立てたのが始まりではないでしょうか?裕福な白人に対する、ある意味見栄ですね。当初は車高調整だけのハイドロリクスもやがて進化し、ついにはクルマにダンスを踊らせたり、ホッピングさせるまでに至りました。1台のクルマに膨大な金を注ぎ込み、クオリティの高いクルマを造る事で自ら力を誇示できる、ステータスの現れでもあるワケですね。
もちろんそういった独自の文化ですから、良くない面もあるでしょう。ドラッグを売った金でローライダーを手に入れるケースもあるでしょう。デイトンのホイール欲しさに人を殺す事もあったりするかもしれません。ストリートで行われるホッピングバトルなども、ある意味ギャング同士のケンカなんだそうです。もちろん銃をぶっ放し合うよりはマシかも知れませんが、クオリティの高いお金のかかったクルマを作れるというコトは、それだけ自分(もしくは自分のファミリー)の力をアピール出来るわけですからね。
ま、そういった文化的背景はともかく、いわゆるローライダーと呼べるクルマってどんなんでしょうか?近年では日本製のコンパクトカーを使ったり、流行のSUVをベースにローライダーを表現するっていうのもありますが、やはり典型的なのはアメリカ製のフルサイズカーをベースにするのが王道でしょうか。もちろん’40年代、’50年代、’60年代・・・とそれぞれの年式や作った時代によって流行や定番の仕上げ方は存在しますが、どんなクルマをベースにするにしても、ある程度お約束の手法やアイテムっていうのがあるようですね。
では、どんなクルマにもハイドロ組んでワイヤー履かせれば『LOWRIDER』なんでしょうか?そうじゃないでしょう。ましてボイドなんて白人の作ったホイールを履いているクルマをローライダーと呼ぶなんておかしいですよね?それはただのローダウンしたアストロであり、サバーバンでしょう?アストロもサバーバンもLO WRIDERに仕上げる事は可能な車種です。が、しかしそれにはLOWRIDERとしての正しい知識とセンスが要求されます。最近はようやく減ってきたようですが、ちょっと前まではすごく多かったんです。売る方も買う方も本当にローライダーの意味が分かってないんですね。
クルマの事に限らず、他の国の文化や流行が少々まちがった形で伝わり広まってしまうケースって、いつでもどこでも何にでもあると思うんです。でも、この場合業者とマスコミの責任って重大だと思います。音楽をはじめ洋服などアメリカンカジュアルといったファッション面でもそうですが、若者を中心にアメリカのギャングスタイルがカッコイイって事になって、クルマもローライダーでなきゃ!っていうコトになり、それでお金儲けを思いついた知識もセンスも中途ハンパな中古車屋さんが、タクシーかポリスカー上がりのポンコツカプリスセダンを安く仕入れて、現地の安い人件費を使いペロッと簡単なオールペンを施し、バネを炙るか切るかして車高を落とし、安物のキャストホイールでも入れてやれば、ローライダーのいっちょあがり!みたいな・・・。もう少し予算があれば、2ポンプ4バッテリーのハイドロ組んで、ホイールもデイトンじゃないけど、それ風の7Jのワイヤーでホワイトリボンの細いタイヤ引っ張って履かせれば最高っすよ!なんてね・・・。
で、買った方もそれで終わりなんですね。もうそれ以上の事はしない。なぜなら、たいていはクルマ以外にも趣味ややりたい事がたくさんあるから。もともとクルマにもローライダーにも、もちろんカプリスにもそれほど興味はないし、思い入れもない。ただ、今乗るならオンナにもモテるし、ローライダーかな?みたいな・・・。そういうのがほとんどでしょう?あくまでファッション。
でも、違いますよね?本来ローライダーって。終わりは無いはずなんですよ。ハイドロもペイントも内装のカスタムも、常に最高を求めて進化させていく・・・。他人よりも良い物を作るために一生懸命って感じで。徹底的にクルマを磨き上げ、そして目いっぱいクルマで見栄を張るのがローライダーの基本のような気がするんですよね。もちろん全てのローライダーがショーカーレベルの仕上がりである必要はないと思います。ただ、街で見かける『ローライダー風』のクルマって、ショップで買った時のまんま、いわゆる『ツルシ』の状態であると思われる個体が多いのと、やたらクルマが汚いっていうのが印象的です。洗車もWAXがけもしたこと無さそうな車で、おまけにあちこちヘコんでたりコスった跡が派手に付いていたり・・・。まるっきりクルマに対する愛情が見えない人って良く見かけます。しかも悲しいかな、車種はカプリス(特にセダン)というケースが多い様な気がするんです。たいてい20代前半とおぼしきオーナーですね。でも、乗ってる本人はこれがLOWRIDERだと信じて疑わないのでしょう。実際、気合の入った筋金入りの『本物のローライダー乗り』はどう思っているんでしょうか?いちど聞いてみたいモンです。
断っておきますが、僕は決して日本の全てのローライダーを否定しているわけではありませんし、カプリスをベースにローライダーを作る事を反対している訳でもありません。インパラの事実上の後継車種であるカプリスがローライダーに好まれるのは、ごく当然の事だと思います。ぶっちゃけ、昔から個人的に大好きな’63年型のインパラなどストリートロッドにカスタムするよりも、むしろローライダーに仕上げる方が正直似合うのではないか?とさえ思ってしまいます。もっともボク自身今さらローライダーに乗ろうとまでは思いませんが、ローライダーのテイストはけっして嫌いではないんです。ワイヤーホイールのカッコ良さも理解出来ますし、完璧なOGスタイルやクオリティの高いエンジンビルドにボディのレストアなど、ローライダーに学ぶべき点も多いと思います。ハイドロリクスだってボクがもし、今よりもっともっと若かったら、もしかしたらそっちの世界に行っていたかも知れません。十分あり得ます。ただ、気になるのはローライダーと言う言葉が間違って理解され、安易に使われている様な気がしてなりません。なんでもかんでもローライダーって呼ぶのはまずいでしょー?あーゆー広告は誤解を招きますし、本物のローライダーに失礼ではないでしょうか?何も知らない人が初めて見たら、ローライダーとはこういうもんだと思ってしまうでしょう?
いちいちツッコミを入れるほどの問題では無いかも知れません。ホントに些細な事かもしれませんが、やっぱりローダウン(シャコタン)した(ただの)アメ車とLOWRIDER(と呼べる)クルマは、ちゃんと区別すべきでしょう。アメ車を扱うプロ(車屋)も、その広告を載せるプロ(本屋)も世間一般への影響力をしっかり認識して、正しいアメリカのクルマとカスタムの文化を伝えて欲しいと願います。