愛しのEl Camino
僕は仕事柄、首都高速をトラックに乗ってしょっちゅう走るんですけど、首都高速ってほとんどが高架で、しかも側壁が思ったより低いので、目線の高いトラック等に乗っていると下が怖いくらい良く見えます。僕は高所恐怖症なので、ふだんはあまり下を見ることは無いんですけど、あの日はたまたま下を見ていたことにより、チョットした出来事が起こったんです。

その日も僕は会社から一番近い首都高速のランプである『三ツ沢』から、横羽線に乗り東京方面へ向かっていました。『横浜駅西口』を過ぎると今度はすぐに『東神奈川』の出入り口なんですが、その辺から高速の高架下を並走する様にドブ川が流れていまして、川沿いには小さな町工場や船の修理工場や民家が軒をつらねています。駐車場も所々にあり、どのクルマ達もドブ川を見おろす様な感じでとまっています。そして僕はその中の1台に一瞬目を奪われました。なんせ高速を走る車の中から下を見下ろし、通りすぎるホンの一瞬のことですから、最初は見間違いかと思ったんですけど、間違いではないコトは次の日また同じ場所を通り過ぎる時に、今度は助手席の相棒のMくん(アストロ乗り)もいっしょに確認してもらったんです。

ぼくが目を奪われたクルマは1967年型のシボレーエルカミーノでした。相棒のMくんは『あんな遠くなのに良く分かったね』と言いましたが、分かるんですよ好きなものは・・・。歴代のエルカミの中でもぼくは67年型が特に好きなんですね。世間的にはイマイチ人気無いみたいですけど、僕にとっては69年型や最終の87年型よりも魅力的に見えます。それはともかく、そこに好きなクルマがとまっているだけなら、特に大騒ぎすることは無いんですけど、ぼくをびっくりさせたのはその67年型がどうやら捨ててあるっぽいんです。さらに驚くべきことにそのエルカミのベッドにはナ、ナント『あれ』が積んであったんです。

『あれ』というのは、冬になるとストーブ用の灯油を売りに、スタンドの人やお米屋さんが小型トラックにタンクを積んで来ますよね。タンクローリーの小型版みたいな奴。そのタンクがエルカミのベッドにでーんと載ってるんです。『うそっマジッ仕事グルマ?』って思ったんですけど、ナンバープレートも付いてないし、遠目に見てもヤレ方がハンパじゃないんですよ。なんなんだアレはって感じで、結局僕も相棒のMクンも『アレは捨ててあるっ』ってことになって、気になってしょーがないので、とうとう次の日仕事の途中『ヤツ』の所に行ってみることにしました。

近くで見るそいつは酷いアリサマでした。ベッドにはやっぱり例の石油タンク(中は空の様)が積んであり、それ以外にも錆びたホイールやオイルの空き缶などのゴミが山の様に積み上げられ、重みで車体後部はベタシャコ状態。室内を覗き込んでみると、やはりこちらもゴミの山。おまけに助手席のシートがそっくり無くなっています。ボディはところどころ錆びが浮き、ペイントもすっかり褪せてしまってはいるのですが、どこにもヘコミやキズらしき物は無く、モールやエンブレム等の細かいパーツまでしっかり残っており、変な改造をしていない全くのドノーマルであることが分かりました。フロントフェンダーに付いているエンブレムを見て僕はちょっと驚きました。どうやらコイツのボンネットの下にはビッグブロックの396ターボジェットが載っているらしいんです。エンブレムがホントならば・・・。そんでもって室内をもう一度みて『おおっ』と思ったのは、コヤツは生意気にもフロアシフトATなんですね。助手席は無くなっているけれど、ステアリングもノーマルで見たところ内装も外装もそれほどポンコツではないということに気がつきました。

でも、どうみてもコレは捨ててある。タイヤも空気抜けてるし、かなり長いこと動いてないない感じです。もしホントに捨ててあるんだったら、捨てた人を探して交渉しモラエルのならモラオウということになり、近くの人々に聞き込みを始める僕らでした。するとそのエルカミが放置してある駐車場の横に建つ工場のオジさんから有力かつ、ちょっとガッカリな情報を得ました。なんとあのエルカミには持ち主がちゃんといて、毎月そのポンコツのために駐車場代も払い、捨ててあるのではないということ・・・。そして持ち主はこの近くのスタンドの人だということを教えてもらいました。

少しうなだれながら、僕らはその持ち主が居ると思われるGSへ向かいました。従業員の方に『お忙しいところ申し訳ない』と声をかけ、お話を聞かせてもらうことになりました。対応してくれた方のお話によると、あのエルカミの持ち主は今この場に居ないけど、その人はアイツをとても大事にしており、手放す気は無いということでした。そして今日の僕の様にアイツを見かけた人が、今まで何人もココを探し出して訪れ、『アイツを譲ってくれないか?』と交渉に来たが、申し訳無いが全てお断りしているということでした。

アイツにちゃんとオーナーが居ると聞き、しかも手放す気も無いと知り、僕はかなりガッカリしましたが、反面少しホッとしました。だって、てっきり捨ててあると勘違いしたほどヒドイ姿のアイツが、実はとても愛されていて、今はちょっとほっとかれているけれど、いつの日か必ずキレイにしてもらえる時が来るんだなぁと思うと、『あぁ良かったな、早く生まれ変わって元気に走る姿をみてみたいなぁ』と、いちアメ車乗りのハシクレとして素直にそう感じました。

人もクルマも人によって愛し方はそれぞれなんですね。やたらに人の物を欲しがってはイケマセン。今日も僕は高速の上からアイツを見ています。そして緑色の川面を見つめながらアイツはこう言います。 『バッカヤロ、オレハステテアルンジャアネエヨ!カンチガイスンナ!イマハチョットヤスンデルダケダ。ノコノコキヤガッテ!ケエレケエレ』
1998年 夏
文:CAPGON